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2009年10月16日 (金)

ソナチネとは

まず、前回ここに紹介したCDに関して、例によって「しんぶん赤旗」に既載のエッセイを紹介します

「演奏家の仕事とは?——楽譜に命を吹き込む       小宮多美江

 たいへん興味深いCDが相次いで発売された。ひとつはソプラノ奈良ゆみが歌った金井喜久子、松島彜、渡鏡子、外山道子、吉田隆子ら女性作曲家たちの歌曲。さいごの長詩「君死に給うことなかれ」の熱唱を、フランスのピアニスト、モニック・ヴーヴェが深く大きく支えきったのが見事。もうひとつは花岡千春が江文也、坂本良隆、守田正義、山田一雄、小倉朗、松島彜、宅孝二、山田耕筰らの作品を集めた「日本のソナチネ」で、ソナチネといえば初心者用の曲という思い込みを吹き払って近代日本の作曲史全景を映し出してくれた。
 「日本のソナチネ」を曲順にみていくと、江文也はチェレプニンという当時の日本の作曲家にとって欠くことのできない激励者の存在を思い出させる。坂本良隆の場合は、日本民謡、機織唄、相川おけさ、艪拍子による三つの小曲も合わせて収めている。守田正義の甘く抒情的な曲に続いて、山田一雄と小倉朗の作品はそれぞれに洒落っ気たっぷりの個性を明らかに示す。次に、ソナチネ・アルバムの一曲かと思わせる松島彜には、ほかに「ワルツ」を添えている。次いで宅孝二の大曲は性格のちがう三つの楽章から成る20分もかかろうかという聴きごたえ十分のソナチネ。そのあと2分足らずの山田耕筰の「ソナチネ」でしめくくられるが、これもこの作曲家がじっさいに幼い姪やまだ生まれていなかった自分の息子のために書いた純心そのままの曲。
 ピアニスト花岡千春は定期的にリサイタルを開いている日本では数少ない演奏家のひとりだが、その度にかれは必ずプログラムに一文を書いている。そもそも演奏家がリサイタルを開くにはまず自分で企画をたてるはずだが、そうでない場合の方が多いからだろうか、演奏会のプログラム解説といえば評論家の仕事というのがこの國ではならいになっている。そうではなくて、曲目解説まで自ら筆をとった演奏家として私たちはチェロの井上頼豊をしのぶことができる。
 さて、花岡はこのCDの解説のなかで、たとえば坂本良隆の仕事はもっと見直されていいとのべている。たしかに、60年代には民謡を素材とした坂本の歌曲を三枝喜美子らの演奏でしばしば聴いたものだが、そのころの私はかれの作曲姿勢になじめないままだったことを思い出した。
 歌曲にもどって同じようにいえば、金井喜久子の一連の「沖縄のうた」「沖縄のわらべうた」もこのCDできくと少しも違和感なく、素直に耳を傾けることができた。これも、ヴーヴェの伴奏の力、そしてむろんこの数年続けられてきたという奈良ゆみとのコンビの蓄積(注1)が生んだ成果が大きいのではないか。
 伴奏というのは、ただ随行するなどというレベルでは決してなく、楽譜を前にして作品を再び創り上げる仕事の協同者、まさに音楽に新しい魂を吹き込んで質的な飛躍を実現する瞬間の大切なパートナーなのだ、演奏家の仕事とはまさにそういうことなのだということを、これらCDからききとることができたのである。」
(注1)これは、2003年に行われたパリ日本文化会館で日仏両国の女性作曲家の作品演奏会(女性と音楽研究フォーラム主催)という前史あってのことなのだが、以後二人のコンビはさまざまな場で続けられたときく。

 前回ここに書いた「清瀬保二のソナチネとの連関」について、ひとこと付け加えます。
 清瀬保二は1937年という年になぜかたいへん沢山の作品を書いている。「ソナチネ」もそのなかのひとつ。とにかく歌曲とピアノの小曲を書き続けてきたそのしめくくりのように、このソナチネは書かれている。
 「日本のソナチネ」のなかのどれに近いかといえば、宅孝二の「ソナチネ」だろう。すなわち、19世紀のソナチネとはちがって、いわゆる「調性」からは自由であり、また組曲ともちがう多楽章からなる曲といえばいいだろうか。
 清瀬保二の「ソナチネ」は4楽章からなっている。
 第1楽章は一見、ソナチネアルバムにあるハ長調のソナチネかと思わせて始まるが、すぐに、それはまったく旋法的であると気づかされる。第2楽章は激しいほどの緊張、増、減和音の連続。第3楽章は一転してリディヤ調の一瞬の透明な時間。第4楽章は清瀬独特のリズミックなアレグロ。
 戦前のソナチネでほかに4楽章ものがあるのかどうか知らないが、清瀬保二にとってはその後戦後につづく室内楽の時代のはじまりを告げる作品であることにまちがいはない。
 楽譜は、できれば年内に完成にこぎつけたいと思っています。      小宮多美江

CD「歌、太陽のように」ALM RECORDS ALCD-7134および「日本のソナチネ」Bellwood Records BZCS-3048。買いなれていない方はどうぞ、音楽の世界社へご注文ください。

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